いびきは、多くの人が一度は経験する「よくある寝ている時の音」と思われがちです。しかし、そのいびきが「呼吸の停止」を伴うものだった場合、緊急性の高い状態である可能性があります。
特に、「ガーッ、ピタッ……しばらくして、フッと苦しそうに息を吸う」というようなパターンのいびきは、睡眠時無呼吸症候群(SAS)などの重篤な症状のサインであり、放置すれば命に関わるリスクもあるのです。
以下のように、通常のいびきと救急対応が必要な可能性のあるいびきには、いくつかの違いがあります。
種類 | 特徴 | 緊急性 |
---|---|---|
通常のいびき | 一定のリズムで音が出ている / 苦しそうでない | 低い |
危険ないびき | 音が急に止まる(無呼吸)、再開時に大きく息を吸う、むせる | 高い |
異常ないびき | 意識がもうろう・顔色が悪い・いびきに混じって苦悶の様子 | すぐ受診・場合によっては救急要請も |
夜間の就寝中に「いびきが止まり、呼吸をしていないように見える」「呼吸再開時に体を大きく仰け反るような動きがある」などは、酸素不足により命に危険が及ぶ兆候かもしれません。
無呼吸とは、10秒以上の呼吸停止が寝ている間に繰り返される状態を指します。これが一晩に30回以上、あるいは1時間あたり5回以上起こると、「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」の診断対象になります。
特に以下のような状態が見られた場合は、早急に医療機関への相談が必要です:
いびきが断続的に止まり、その後に「フッ」と苦しそうに再開する
寝ている間に息を止めているように見える
朝起きたときに頭痛や極度の疲労感がある
日中に異常な眠気がある
呼吸が止まっている時間が長く、顔色が悪い
このような症状を見かけたら、いびきをただの「寝相の一部」と軽視せず、重篤な病気のサインとして受け止めることが重要です。
いびきに伴う呼吸停止の主な原因は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)です。SASは、眠っている間に何度も呼吸が止まる疾患で、日本では潜在患者を含めて約900万人以上いると推計されています(厚生労働省推計)。
SASは以下の2タイプに分類されます:
閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)
→ 空気の通り道(上気道)が、舌や喉の筋肉によってふさがれてしまうタイプ。いびきを伴う。
中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSA)
→ 脳から呼吸の指令がうまく出ないタイプ。いびきがない場合も。
特に多いのはOSAで、肥満・加齢・扁桃肥大・小顎症・アルコール摂取などがリスク要因です。これらにより、寝ている間に舌が喉の奥に落ちて気道をふさぎ、空気の通り道が完全に遮断されてしまうのです。
呼吸が止まると、身体は強制的に目覚めさせることで呼吸を再開させますが、この繰り返しによって熟睡できず、疲労や集中力の低下を引き起こします。
呼吸が止まることで、脳や心臓に必要な酸素が供給されなくなり、深刻な健康被害を引き起こすリスクがあります。とくに、以下のような合併症に注意が必要です:
合併症 | 内容 |
---|---|
高血圧 | 呼吸停止時の酸欠が血圧を急上昇させる |
心筋梗塞・脳梗塞 | 酸素不足が心血管・脳血管の負担に |
糖尿病 | 睡眠の質の低下がインスリンの働きを阻害 |
うつ症状 | 慢性的な睡眠不足が精神にも影響を及ぼす |
特に夜間のいびきや呼吸停止が頻繁にある場合、心筋梗塞・不整脈・突然死のリスクも高まるため、「寝てる間の話」と軽く考えることは危険です。
また、いびきをかいている本人は無意識であるため、家族や同居者が異常に気づいたときこそ、早めの対応が重要になります。
夜間に家族やパートナーのいびきが急に止まり、「呼吸していないように見える」「顔色が悪い」「身体が動かない」といった状況に直面したとき、多くの人が「これは救急車を呼ぶべきか?」と迷います。
この判断には、明確な基準を知っておくことが重要です。
以下のチェックリストに1つでも該当する場合は、ためらわずに救急要請を検討しましょう。
状況 | 対応の目安 |
---|---|
呼吸が止まって30秒以上再開しない | すぐに声をかけ、反応がなければ救急要請 |
顔色が明らかに青白い・紫がかっている | 酸欠の可能性あり、救急車を呼ぶべき |
呼びかけても意識が戻らない | 意識障害を伴う無呼吸の恐れ、即要請 |
寝ていて何度も激しくむせる・呼吸が不安定 | 頻回な無呼吸の可能性、医療機関への相談を推奨 |
日中にも強い眠気・集中力低下がある | 睡眠時無呼吸症候群が疑われるため、検査が必要 |
特に、「呼吸が止まっているのに目覚めない」「舌が奥に落ち込んで喉を塞いでいるように見える」「窒息に近い状態になっている」といった場合は、意識確認と救命処置(必要に応じて心肺蘇生)を行い、すぐに救急要請を行うことが命を守る行動になります。
「すぐに救急車を呼ぶべきか判断できない…」という時に便利なのが、**救急相談センター「#7119」**です。
このダイヤルでは、看護師や医師が症状を聞き取って、緊急性があるかどうかを判断してくれます。お住まいの地域によっては、夜間・休日でも対応可能です。
#7119(全国の一部地域で運用)
→ 緊急度を判定し、必要に応じて救急車手配や医療機関紹介をしてくれる
地域によっては「救急安心センター○○市」などの独自窓口がある場合も
一方で、明らかに命の危険が迫っている場合には迷わず119番を。救急相談は「迷う時」に使う補助的な手段であり、「明らかな危険」の時に優先すべきは即通報です。
夜中、隣で寝ている家族のいびきが突然止まり、「呼吸していない?」「顔色が悪い?」と感じたときは、まず落ち着いて応急対応を行うことが大切です。
この対応次第で、窒息や重篤な状態を未然に防げる場合もあります。
いびきに伴う一時的な無呼吸の多くは、「仰向け寝」が原因です。舌が喉の奥に落ち込んで、気道が塞がれてしまうのです。この場合、以下の対応が有効です。
自宅でできる応急処置の例:
体を横向きにする
→ 重力で舌が前に戻り、気道が開きやすくなります
枕を低めに調整する
→ 首の角度を改善し、呼吸がしやすくなることがあります
声をかけて軽く揺さぶる
→ 意識を確認し、無呼吸状態から目覚めさせることができます
また、鼻呼吸ができていない場合は、鼻づまりや口呼吸が原因の可能性もあるため、鼻腔拡張テープや加湿器などの使用を検討してもよいでしょう。
上記のような状態が一晩に何度も起きる・毎晩繰り返す・日中にも影響が出ているといった場合は、睡眠時無呼吸症候群が疑われるサインです。
そのまま放置しておくと、以下のような健康被害が起こるリスクがあります。
心臓病や高血圧の発症リスク増加
脳卒中・心筋梗塞などの重大疾患
居眠り運転による事故
慢性的な疲労と集中力の低下
本人が自覚していないことも多いため、家族の気づきが非常に重要です。
症状が続く場合は、耳鼻咽喉科や睡眠外来を受診し、**簡易睡眠検査やポリソムノグラフィー(PSG)**による正確な診断を受けるようにしましょう。
いびきは単なる「眠っているときの音」と軽く見られがちですが、呼吸の停止を伴う場合には命に関わる重大なサインである可能性があります。特に「いびきが急に止まる」「息をしていない時間が長い」「再び呼吸を始める際に苦しそう」などの症状が見られたときは、睡眠時無呼吸症候群(SAS)をはじめとする呼吸障害の可能性が高いといえます。
救急要請の基準を見極めることは難しいかもしれませんが、顔色の変化・意識の有無・呼吸再開の遅れなど、危険な兆候を見逃さないことが大切です。
また、「#7119」などの救急相談窓口の活用や、いびきに関する情報の共有は、家族の安全を守るうえでも非常に役立ちます。
繰り返されるいびきや無呼吸は、放置せず早期の受診と対策を。
自宅でできる体位変換や口呼吸対策も有効ですが、重症化する前に専門医へ相談することで、健康被害の予防につながります。
安心して眠るためにも、いびきの「音」ではなく、その「質」と「変化」にしっかり目を向けましょう。
睡眠時無呼吸症候群について|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000187981.html
睡眠中の異常呼吸に注意!|日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=34
救急安心センター事業(#7119)|総務省消防庁
https://www.fdma.go.jp/mission/enrichment/appropriate/appropriate002.html
睡眠時無呼吸症候群の基礎知識|SASネット(日本睡眠学会)
https://sas-japan.org/basic.html